なちぐろ アーカイブス

ヒカ碁二次創作のお話置き場です(ヒカル少女化注意)

順番に読む場合は「カテゴリー」(モバイル端末はページ最下段)から選択してください

Driving Talk

 

「そんじゃ行こうか」

ヒカルはイグニッションのキーをひねり、エンジンをかけた。

助手席では丁寧にシートベルトを調えながらバックルをはめるアキラが
「もう少しキチンとやったらどうだ。」
ヒカルを横目に見ながら言った。

「キチンとってナニをだよ。 」
やたらと伸ばしたシートベルトを腹の上に垂らし、
公道へ出る前にいったん停止した所で、おもむろにバックルを差し込んだ。

「ちゃんと回り確認してるし、シートベルトだってしてるじゃん?」

「今ごろ遅いじゃないか…。それに走行前点検を怠っている。」

「はァ?」

 コレ、レンタカーじゃねェか…。

 

 



その一

 

 

「真運転?」

 

「そ。」

助手席に座る塔矢は、聞き慣れない言葉をオウム返しに訊ね、ヒカルがそれにうなずいた。

 

「教習所で習ったとおりのガッチガチの真面目な運転のことをそう呼ぶんだってよ。
いい加減な運転をしているときに、ちったぁマトモな運転しろっていう時にもいうらしいケドな。」
「ふうん。」

聞いたことはないが、流行語はほとんど知らないと自覚する塔矢は素直に相槌を打った。

「エート、ホラ、真人間、とか、そーゆー言葉あるじゃん?それに似た感じなんじゃね?
…オレ、よく言われるんだよなァ。」
「だろうね。」
「チェ なんでだよ…。」
「なんでだよじゃない。自覚してくれ。」

ぷうと膨れて、ヒカルは
「オマエみたく、走行前点検なんか毎回やってられるかっての」
ぶつぶついいながらCDプレイヤーに手を伸ばす。

「てっ!」
その手をぴしゃりとはたかれて、ヒカルは思わず手を引っ込めた。

「走行中に余計な操作をするな。そういう事は停止中にやってくれ。」
「オマエこそアブねーな、コノォ…。」
ヒカルは助手席のオカッパをじろりとにらんだ。

 

「フン、オマエなら得意なんじゃねェ? 真運転。」
「キミみたいに無茶はしない、ということでなら、そうだね。」

これがムチャ?

さっきからなにかっていうと、アレ見ろコレしろソコ注意しろ って、うるせェの何の…。
塔矢は正しいかもしれないが、ちょっと…度が過ぎる。

「じゃあオマエ運転しろよ。オマエだって免許持ってんじゃん。」

「公道は苦手だ。回りの車も歩行者も、無茶苦茶な行動をとるから、危なっかしくて疲れる。」
「ナニ F1レーサーみたいな事言ってんだよ。 」
ヒカルは肩をすくめた。


「おっ、コンビニ発見。」

対向車線側にコンビニの看板を見つけ、ヒカルは行き過ぎたところで、ぐいっとハンドルを切って車をUターンさせた。

アキラは助手席にブレーキペダルもないのに、反射的に右足を力いっぱい前に蹴りだした。

「ここはUターン禁止だぞ!」
「対向車も後続もいないんだから、いいじゃんか 」
「いい加減な運転をせずに、それこそ、」

「… 真運転してくれないか!」
アキラがそう叫ぶと。

 

ヒカルは真正面を向いたまま、眼を瞠った。
速やかに路肩に停めて、ブレーキレバーを引いたあと、
待ちかねたように、こらえていた笑いを大爆発させた。

 

「…何だいったい。」

 

大爆笑のあと、吐ききった空気を吸い込むと、ヒカルはたまらずハンドルをぶったたいた。

「マウンテンー! ギャハハハハハ!」

「…進藤。」

「マウンテンするってナニ?山?やま?」


「…また担いだな…!」

「アハハハハハ気付けよ最初によ、」

「そんな言葉 ないんだな。」

「あるワケないじゃん~!」

 

はらいてェ~ ぎゃーはははは…!

 

…って爆笑していたら

ベンチシートが災いした。

 

 

「うわァッ!お、おまッ、ちょ、やめろよッ ココ、コンビニの前っ…!」

 

からかうのはほどほどにしないと。…と、今度からはもっと早めに思うようにしよう。

 

「マッ……
マウンティングすんじゃねえッ!!」


 

 


 

そのニ

 

 

「チェ、結局何も買いにいけなかったじゃねーか。 んな事するんじゃねーよハズカシイ。」
「自分のせいだろう。」


信号待ち。


アキラは顔を助手席の窓に向けていた。

――『ホームパンツ 1000円均一』――

と、雑貨屋の前に張り紙があるのを、アキラの視線の先に目をやり、訊かれるでもなくヒカルが答えた。
「ホームパンツってのは、ホームベース型のパンツだよ。」

「…は?」
「ホラそこの張り紙の」

「……ああ。」
そんなもの見てもいなかったと、改めて視界に入れた手書きの筆文字を見て頷くアキラ。


「3つある穴のどッからでも履けるんで、3回使えるとか、裏返したら6回はイケるとか言うけどな…」

「汚いな」

「知るかよ。オレは買わねーもん。」

「ふうん。」

相槌を打った。

それを聞いたヒカルがしばらくして、小さくため息をついた。
「…どうした?」
「…イヤ…。」

「…ウソ教えるのも、いい加減アキたなー…って」
「また嘘なのか!!」

キーン。

「耳痛ェ…」 

「よくそんなに嘘を思いつくな、キミから聞かされたデタラメはこれで八百とんで四回目だ!」

数えてるのかよ。

「って待てよ、いくらなんでもそんなには言ってねーぞ、大げさな数字言うんじゃねェ」

「大げさなものか。
…もっとも、キミが故意に吹いたホラだけじゃないが。」
「ああ、そーか、なァんだ…

って、素で勘違いしてるのもカウントしてんじゃねェよ!」

「被害は同じだっ!!」

 

「 …被害…!? 」

 


 

 

 

その三

 

 

「中国?」
「ウン。」

何を言っているんだ、アキラは呆れたように言い返した。

「ゴルフはイギリスが起源だ。…常識だぞ。」
「中国だってば。」

こめかみに指をあて、はァ と、アキラはため息をついた。
「また嘘を教えようとして。そんなわかりきった事では、だまされやしないぞ。」

「ウソじゃねーよ…。…ああっ!さては」

「なんだ?」

「オマエ、オレにだまされてるって、サカウラミして」
「それは逆恨みといわないんじゃないのかな…。」
アキラのツッコミにもかまわず、ヒカルは正面から、ズビシ と指差した。
「逆にオレをだまそーとしてんじゃねーのか?」

「…馬鹿馬鹿しい。なぜそんなことを」

「今日は4月1日じゃんか!
オマエなら今日だけは心置きなく嘘つこうってしそうだしな!」

「くだらない、そんなことしようとも思わない!」

そう思われただけでも失敬だ。

アキラは腹を立てて言い返した。

「じゃあ何か根拠があっての発言なんだろうな、そのゴルフが中国起源だというのは?」

「コンキョ?」

「そうだ。文献かなにか、証拠になる資料があるなら、示してみたまえ!」

「そーきたか。へへ、」

「…あるのか?」

「んなもん持ち歩いてるわけねーじゃん。」
「ホラ見ろ。」

「でも、なんていう本に載ってたかは言えるぜ。オレ結構記憶力いいんだ。」

「キミの都合のいい記憶力は、ボクも良く知っている。」

「いちいちむかつく言い方するなァ。
…コレはなァ、ケッコウちゃんと覚えてんだぜ。」

ヒカルは得意げに胸をはる。

「ゴルフって、中国の武術が元になってんだ。 」
「武術?球技じゃないのか?」

チ・チ・チ、と
アキラの言葉を聴いて、ヒカルは指をふって格好つけてみせると、
少し上目遣いで記憶をたどりながら、諳んじてみせた。

…この技の創始者 宋家二代 呉 竜府(ご りゅうふ)は
正確無比の打球で敵をことごとく倒したという

 この現代でいうゴルフスイングにも酷似した打撃法は 運動力学的観点からいっても弾の飛距離・威力・正確さを得るために最も効果的であることが証明されている
 ちなみにゴルフは英国発祥というのが定説であったが 最近では前出の創始者 呉 竜府の名前でもわかるとおり 中国がその起源であるという説が支配的である

民明書房
『スポーツ起源異聞』より

 

「…。」


「な?どーだ驚いたか。」

「驚いたな。 」

「信じる気になった?」

「…それもだけど、よくそんな文章覚えているなと思って。その本、読んだのか?」

「ウウン、何かに書いてあった。すげーなあとおもって、そこは覚えてたんだ。」

「じゃあそれは何の本?」

「ウーン… なんだっけ………。」

「…本当に都合のいい記憶力だな。…でもまあ、

それは信じておこうか。 」

 

 


 

 

その四

 

 

「――――あのおかげでボクまで大恥かいたじゃないか。」
「悪かったよ。」

 

「なんだ「民明書房」って。マンガの中に出てくる架空の出版社だそうじゃないか。くだらない。」
「オレだってソレ信じてた っつーの。
…オマエが桑原先生の接待ゴルフなんかに行ってそんな話したって聞かされなかったら今でも…。」

「あの時は爆笑の渦だったよ…。」

そのまさに渦の中心に、自分が鎮座する羽目になったとは。
アキラは、忘れ去りたい記憶に顔がどんより暗くなった。



「ところでそれは、通算何個目だった?」
「六百二十五…、 おい。」
訊ねたヒカルはすかさず返ってくる答えを聞き、愉快そうに口元を歪めた。
「よっく覚えてんな、オマエだって都合のいい記憶力持ってんじゃん」
「それだけ忘れられない記憶だ、という事だ。…どういう意味か、わかるか?」
「~~~~…ヒエェ…。」
視界の真横に恐ろしく鋭い形相が迫って来て、一瞬は懲りたような顔を見せるヒカル。

だが一瞬だ。次の瞬間にはソレを忘れ

「アッ」

眼の前の障害物に慌てて車を停めた。

さっき、ウッカリ細い路地に入り込んで、大きな道に出ようと車を進めていたのだが、
やっと細い路地の向こうに、広い車道が見える場所まで来たのに、

なんと恨めしいことか、

その直前、路地の中央に、年季の入った小さな石柱がにょっきり立っていた。

向こうからの侵入禁止のためだろうが、あと数メートル、という所で思い切り通せんぼされてしまった。

 

「ガーーーーン」


ここまで来といて、そりゃないぜ、ヒカルは天を仰いで額を手で覆った。

アキラは、そもそもなんでこんな路地に入ったんだキミは、と言おうとして、その無意味さに言う前から疲れを覚えた。

…もうこれ以上何も言う気になれない。

とうとうアキラは、
「もうボクは知らないよ。眠らせてもらうからその間に何とかしておいてくれ。」
背もたれに体を沈めた。

「あ、ナビのくせに逃げんのか。」

「ナビになった覚えは無い。」

「そこ助手席だろォ!そこ座ったら助手なんだよッ!コラ、寝んなよ助手!」

ムッとするアキラ。
刹那、そのポーズのまま手だけをすばやく動かした。
ガチャ、バタン。
シートベルトがはずれ、しゅるると収まっていく。バックルが踊るように元の位置に飛んで戻っていくその真下で、背もたれと一緒に一気に沈み込んだ塔矢の上体。

「エッ?」

ヒカルが眼を丸くして見ていると、

さっと後部座席へ滑るように移動して、むっつりと腕組みの格好で横になってしまった。
助手席背後のレバーを足先で押すと、助手席の背もたれが乱暴に元の位置に戻る。

「わッ!?」
眼の前に起き上がった背もたれに、驚いてのけぞるヒカル。

 

「運転手さん、急いでお願いします。」

「大人げねェ!塔矢のクセに大人げねェ!」

 

。 . 。 . 。

 

 

 助手席の後ろに手を掛けて、上体を真後ろへねじり、

「クッソー、なんだこの路!細ェし曲がってるし、誰だよこんな道入ってきたの、オレだよチクショー!」

車幅ギリギリの道を、これまたギリギリな表情を浮かべて、じわりじわりとバックする。

 

「がんばれ。」
腕組みで寝転がった塔矢が緊張でこわばったヒカルの顎を見上げて声援を送る。

 

「うるせェ!」
顔の向きはそのままに目だけを一瞬ギロリと塔矢に向けた。

なんだか涼しげな笑みで目を閉じてしまうアキラの顔に腹立たしさ爆発だ。
どっかにぶつけて飛び起きてもらいたい

これがレンタカーじゃなくて塔矢の車だったら、回りが民家じゃなくてどこかのがけなら遠慮なくやっている。

 

 

まだ路地の中だが、やっと少しだけ広い十字路に戻って来た。

「フー… 
じゃあドッチに行けばいいんだろう。」

「しばらく休めばどうだ。」
「なにいい気なコト言ってんだよ!
あ、ホラ後ろから車来ちゃったじゃねえか!」

「どいてやれよ。」

「どこへだよ。
あ、ウィンカー出した。よかった。…ちょっと前に出よ。」
いったん前を向きギアを変えて急いで前進、後続の車に場所を譲ったヒカルは、
再びギアをリバースに戻して後ろを向き、十字路の手前まで戻った。

「エーと…」
「右だな。」
「エ?」

「今の車、右へ行ったんだろ?とりあえずついて行ってみればどうだ」
「あ、そーか
…て なんで?そっからじゃ見えないだろ。」
「わかるよ。」
「知ってたのかよ?道。」

「違うよ、キミが教えてくれたんだ。」
「?」
「今の車を目で追ってたじゃないか。」
「ア。」

…なんでェ…わーってるよ ンなコト。などとぶつぶつ言いながら細い十字路を注意深く右折した。

「ウワ、なんでこんな角にデッカイ石、ころがってんだよ。
…細いんだから電柱なんか立てるなっての。ブロック塀直せよ崩れかけてんじゃんか…!」
散々わめきながら、ヒカルは細い上に障害物の多い路地をじわじわ進む。

 

ねじれた路の向こうに車道が見え、さっき前を行かせた車が、多くの車の流れの中へと合流するのがみえた。

「やった、見えた~!」


車道へと左折して、程なく路肩に車を停める。
「フー…、」
サイドブレーキの音とともに、ヒカルが息をついた。
「おめでとう。」
起き上がった塔矢がヒカルに祝福のことばを送る

「…テメェ、」
「お祝いに何か買ってやろう。」
「…、と、そーだな、喉乾いたしとりあえずコンビニ…」
「と言いたい所だったが悪い、もう時間が無い。次の約束まであと15分だ。間に合うかな。」
アキラが腕の時計を見て冷たく言った。
「…テメー…!」
「しっかり頼むよ マウンテン。」
「タネあかしの後で、あえて使うかその単語。」
「キミに関してはこれは必要な言葉だな。では「真運転」よろしく!」

ガシャッ!

ドアロックが四方で鳴る。

「?!」
ヒカルがドアロックを解除したらしい。その直後、
バン!すばやく外にでたヒカルが後部扉を開け
「今度はオマエが運転だ!出やがれこの!」
後部座席にのりこんでアキラをケツで押し出す。
「ウワっ、やめろ危ない!」
「大丈夫だそっちは歩道側だから、当たったって自転車だ!」
「無茶をするなこんなところで!」
「オマエに言われる筋合いはねェよ!」

 

 


 

 

「まったく。これから仕事なのに…。」


運転席には、
ヒカルに蹴られて土ぼこりのついたスーツの袖を、不機嫌そうにはたく塔矢の姿があった。

「あれ、時計が」
車の時計表示と腕時計を見比べた。

「車の時計は電波時計じゃねーの?オマエの古くっさい手巻き時計よりは正確だぜ。それにレンタカー屋を出る前にオマエがあちこち指さして確認してたじゃねェか」
「そういえばそうか…。」
とはいえ、日ごろから手入れを怠らない愛用の腕時計と、それよりも30分以上も遅れている車の時計をもういちど見比べたり、腕時計を耳に寄せてみたりしつつ、首をかしげた。

「まあいい、…じゃあまだ余裕だな。」

落ち着いた様子でシートベルトを装着し、ミラーと計器を一通り確認、その後おもむろに回りを確認してウィンカーを出し、塔矢は車を発進させた。

「安全第一だ。」
「そうだな。」
すっかり疲れたヒカルはさっきの塔矢と同じく後部ソファに横になった。


背中に塔矢の残したぬくもりが伝わってきた。

「ふああ…」

「おい、本気で寝るなよ。」

「だってさっきので疲れたもん
…よろしく まうんてーん…」

「もう、そんなくだらない話はよせ。」

 

という言葉には言い返さなかった。
滑らかな運転だし、それに
ほの暖かいソファーが寝心地よくって。

 

車の時計が電波時計だ…ってのは本当だけど、
さっきナンかヘンなトコに触っちまって、ウッカリいじっちゃったことは言わないでおこ。

分表示が「37」だったのが一瞬で「00」になったとか…

ソレ言っちゃうと、運転が乱暴になるかもしれないからな。
塔矢の言うとおり、安全第一だし。

電波時計だもん、またすぐに正確な時間に戻ってくれるだろ。自動的に…。

 

「おいっ、進藤!
…寝たのか?…しょうがないな… 」

 


…………大丈夫大丈夫、どーにかなるなる…………、  

 

ン…?そーいや…八百とんで…ごかいめ ってことに なっちゃうのかな コレ

…………………… ぐー。

 

 

 

 

 


 2008年のエイプリルフール企画で書いたお話です。

 「塔矢アキラに愛の嘘を」というサブタイトルがタブに表示されるようにしてました。

そう、愛です愛。アキラを800回以上もだまくらかすのも愛の成せる技。

ヒカルにしてみりゃアキラは格好のいじられキャラに見えてるのかもしれませんが

原動力は愛ですよw (←何で笑う)

 

余談:イメージのもとにした場所は京都のとある街の中。細い路地のたくさんあってうっかり入り込むとエライ目に遭う…本因坊ゆかりのお寺にほど近い辺りでございます。