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ヒカ碁二次創作のお話置き場です(ヒカル少女化注意)

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リボンの棋士  50

「お待ちください!橋は落ちております!」

「そこを飛び越えようなどと無茶はおやめくだされ!」

「ヒカル様っ!」

「若!」

 

 

口々に呼び止め追いすがる者たちを振り返りもせずに、二人は城の濠の前まで駆けて来た。

さすがに飛び込むようなまねはせず、落ちた橋の残骸の前で立ち止まると、堀を覗き込む。


いつかの小さな渡しの舟が、濠端に浮かんでいるのが見えた。

 

ひらりと飛び降りるヒカル。小さな舟はその衝撃で大きく傾く。
続いて降り立つアキラがその揺れを殺し、石の壁を蹴ると、
小舟は対岸の城壁に向けて水の上を滑った。

二人は用心に低く身を伏せて、舟の行く手を睨む。

小さな舟はそのまま、黒く口をあけた小さなアーチをくぐって、城内に吸い込まれていった。

 

 

湿った肌寒い空気が満ちる 城の中の空間。

舟の舳先は船着場の縁石にゴツンと弾かれ、尖った波が立った。
二人は石の縁に手をかけ、足場を舟べりに掴み寄せた。
二人それぞれに小舟を後にして、城の中に足を踏み入れる。

 

と、 薄暗く濡れて光る城内の壁が 不気味にざわめいた。

まるで侵入者を主に知らせる合図を送っているようだ。

 

 

ヒカルがその気配にゾッと背筋を硬くして、辺りを見回す。

その怯えのちらつく眼に気付き、アキラは
「臆するな、先を急ごう。」

そう言うと、ヒカルの手を引いて通路の奥に歩を進める。
「ウワ、ワ!?ナニすんだよアキラ?」
「ぐずぐずしている場合じゃない。侵入すれば敵も気付く。ボク等は敵の罠に進んで足を踏み入れているのだろう。躊躇するだけ時間の無駄だぞ。」

じっとりと染み込んで来る気味の悪い冷気に動きの鈍りそうだったヒカルだが、アキラの熱い手を頼りに、強気な態度を取り戻す。

「わ、わかってらい!それよりオマエ、そんな早足で、この通路どう行けばいいのか知ってんのかよ?」

「知っているさ。一度、来たことがある。」

「そうだっけ?」

 

ヒカルが刺客に襲われて怪我を負って帰ってきた時の事だ。
が、ヒカルはよく覚えていないような声を上げる。
意識も途切れがちだったのだから無理はないだろう。

アキラは眉をひそめて言った。
「そんな事より それだけ元気が出たのなら、手は引かなくてもいいな?」

「ア。…あ、あたりまえだっ」
ヒカルは手を振り払うと拳を握り、アキラを肩で押しのける勢いで、急ぎ歩きはじめた。

アキラもまた遅れまいと力強く歩を進める。城の奥を目指して、並んで競う様に勇み歩く二人であった。

 

「言っておくが、油断はするな。」

社の城でもそうだったろう…と言いかけた途端にヒカルは速足を駆足にして階段を急いで昇った。

「わかってらい!…どっから余計なお出迎えが来るか わかんねェってんだろ?
来るなら来いだ。 そんなの、振り切ってでもお母さんのところまで行ってやるさ!」

ヒカルが息巻いて答えた。

「だって、もしかしたら、お母さん、もうアイツに捕まっちゃってるかもしれないんだぞ!」

体に纏い付く恐れを振り払うように、足を振り上げ、ひじを張って、颯爽と言うよりは、しゃかりきに走るヒカル。

その体の動きにつられてマントの波打つ様が、彼女の張り詰めた感情を表しているようだった。

 

アキラは内心、不安を禁じ得ない。

 

あれだけの怪物を相手に臆さず立ち向かっていた彼女が、なぜ今更、こんな風に動揺しているのか。
やはり、以前とは違うという事だろうか…

 

城の奥へと進むほどに、逃げ場を見失い、恐怖に腰を抜かした侍従達に出くわす。

窮地に現れた王子の姿に驚き、すがる彼らをなだめては、自分達の来た所から城の外へ逃げるよう指示するが

王妃の居る部屋を目指して更に奥に進みながら、
家来達は果たして自分達だけで逃げる事が出来るだろうか、と
二人は深刻な表情で思い巡らせていた。

 

ようやく王妃のいる部屋に近づくと、だっと駆け寄って扉に取りすがるヒカル。

 

「お母さん!オレだよ!中にいるのっ!?」

 

アキラはあたりにさっと目を配り、用心しながら扉をヒカルとともに開く。

「お母さん!」
中に母の姿を認めてヒカルは飛び込んだ。

まだ中には敵に押し入られた様子は無い。

アキラはひとまずの安堵の息をつくと、ヒカルの背後を護るように部屋の外を睨みながら自らも部屋に入ると速やかに扉を閉じた。

そして部屋の中に振り返れば、

「おかあさん、よかった、無事だった!」
ヒカルはベッドの横に力なく座り込む王妃の傍に駆け寄り、母親の顔を覗き込んでいる。

「ねえっ 逃げよう、お父さんもちゃんと連れて行くから!」
「ヒカル…。」

助けに現れたヒカルを見て一瞬眼に輝きの戻った母だったが
かすかに首を振るとヒカルを押しやった。

 

「お母さん!?」

「お父さんはもう…。
ヒカル、お母さんはお父さんを置いていけないけれど、貴方は早く逃げなくちゃ。」

「大丈夫だって!オレ、お父さんを担いでいくからっ!」

母は首を振った。

「いいのよ、ヒカル、貴方こそ早くお逃げなさい。せっかく遠くから無事に戻って来たのに、またこんな危ない所に入って来ちゃダメでしょ…。」

「お母さんっ!?」

 

 

「王妃様、ボクもお手伝いいたします、ここから一刻も早く逃げましょう!」

王妃はアキラに眼をやると

「塔矢の若殿様に助けていただいたの?ヒカル。」

「ウ、ウン。」

ほつれた髪を直しながらため息をついた。

 

「…もう、アンタったら、大事な賓客にご迷惑をかけて、もしものことがあったらお母さん、あちらのお国に申し訳が立たないじゃない。」

「だ、だけどお母さん…。」

はあ、と肩を落とす母に ヒカルはうなだれた。

「ご… ごめんなさい…。」

「もういいから、早くお逃げなさい。こんな所に来るなんて無駄な事しないの。」

ヒカルににっこり微笑みかけた。

「お母さんはいいのよ、お父さんの傍に、こうしているから。」

「お母さん…。」

 

 

「ほら みてごらんなさい。お父さん、眠っているみたいでしょう。
…死に化粧しているわけじゃあないのよ、ホントにまるで眠っているみたい…。だからそっとしておいて上げて…」

「おとうさん…。」

母と娘が並んでベッドに手を載せ、横たわる父の亡骸を見つめていた。

アキラは、親子三人の姿を、哀れむ表情でしばらく見つめていたが、

 

何かが気になる。

 

アキラは思考を巡らすように口元に手を当て、王を見つめながら幾度か瞬いた。

「…これは…まさか!?」

 

ついにその眼が答えを見つけ、その瞬間に大きく見開かれる。

「…失礼、王様、王妃様、」

そう言って国王の傍らにひざまづき、死に顔をつぶさに観察する。
「アキラ…?」

 

何事が?とあっけに取られるヒカルがベッドにすがったままアキラを見上げる。

 

アキラはその血色のよい死に顔になにやら見覚えがあった。
ふと、目に留まった、ガラスの粒のように固くなったしずく。

「コレは…!」

ヒカルの時と同じ…!

違うのは、ヒカルの時には目元に飾られていたしずくが、
国王のは 鼻の下のヒゲにくっついてあったくらいで。

ヒカル達の不安そうな顔に見守られて、アキラは確信を得たようにゆっくり頷くと、体を起こした。

「ヒカル、よく聞いてくれ。」

「…な、ナニ?」

「国王は、キミのお父上は  まだ 亡くなられてはいない。」

「…エ、…エエ?!」

 

ヒカルが横たわる父に首を向けると、すがり付いてその息を確かめる。

手のひらを沿わせた父の頬は冷たく、呼吸も 脈もない。

ヒカルは失望の表情で振り返りアキラを見上げた。

「アキラ、だけど…。」

「そうだ、そういえば思い当たることがある。国王が崩御されたのは確か、囲碁大会の決勝の夜だったな…。」

「ウ、ウン…。」

「月蝕を合図にするように国王は倒れられたのではなかったか…?」

「…。」

「それより遅くはあったが、ヒカル、キミもまた倒れたね。まさにこの国王の横たわるのと同じように…。」

「あの時は…」

ヒカルが森の中で倒れた時の記憶を懸命にたどる。

「回りがどんどん真っ暗になって…佐為の声が遠くなって…もう、鉛みたいに体が重くって、苦しくて、心臓が…凍ったみたいになって………ア…」

ヒカルの肩に手を置いてなだめながら、
アキラは言った。

「見たまえ、国王を。

息もない、心臓も止まって、体が冷たくなって…、
しかし、その肌の色は活き活きと血色が良い。見た目では死んだ人間だとは思えない程に。
…まるで生きた人間が 人形にでも変身したようだ。」

「アキラ!もしかしてこれって オレと同じだっていうの?!」

驚きの表情で自分を見つめる母娘に、アキラは頷いた。

「なぜかはわからないが、これはきっと、桑原博士の仕業だ。魔法の毒薬を盛られたのに違いあるまい。」


「桑原博士?」

王妃が信じられないとその名を復唱する。

「じーさんの、薬のせい?お父さんがじーさんに毒薬を飲まされたってのか?」

アキラが確信を持って ヒカルに、ぐっと頷いてみせた。

思いがけない事態にヒカルは思わず胸元で手を握る。

その時、手に当たった感触にはっとしたヒカル、急いで懐に手を入れて小さな瓶をつかみ出した。

 

「あ…!じゃあ、オレの薬が効くかもしれない!ほら!コレ、解毒剤だってじーさんが言ってたもの!」

「えっ あ、イヤ…」

 

アキラはヒカルの言葉を遮ろうとしたが、ヒカルはアキラと王妃の顔を見て頷き、白い飴の入った瓶を差し出した。

 

「オレ、イイよ、薬なんかいらねェ!」

ヒカルはためらうことなくそう叫んだ。

 

「だってホラ、オレ、今までずっとこうだったんだからさ、な?

今更薬なんか飲まなくたって、…ソレよっか、」

 

「そうじゃなくて、ヒカル、」 

アキラはかぶりを振り、ヒカルの小瓶を差し出す手を握って、まくし立てる台詞を遮った。 

 

「…違うんだ。」

「?」

 

「その薬はお父上には効かない。」

「…な、なんで…?」

 

「この術を解く方法は一つだけなんだ。桑原博士の言っていたことが本当ならば。」

「この薬じゃ…ダメなの…?」

「第一、こんな状態の国王に、どうやって薬を飲ませる気だ。」

「ウ…それは…。」

 

言葉に詰まったヒカルはアキラに問い返した。

「じゃ、じゃあ、その方法ってナンなんだよ!?オマエ、知ってるのか?!」

そう訊かれたアキラは、ヒカルを睨みつけていたが、瞬きで肯定すると、やや頬に赤みを差しつつ、ようやく口を開いた。

 

「“生涯を共にする運命にある者の…口付け”だ。」

「…へ?」

 

父・正夫は 御器曽の行動を怪しんで、ヒカルに与えられようとしていた黒飴を口にした。

ゆえに ヒカルと同じく仮死状態に陥ったのだ。

それは桑原博士の用意した 魂の器として生きながら死体となる、魔法であった。

そして、その魔法を解く方法はただ一つ。

それが、「生涯を共にする運命にある相手の口付け」。

 

 

 

 

「って言うかちょっと待って、 オレ、その方法で眼が覚めたの?」

「…そうだ。」

アキラはヒカルから顔を逸らしてつっけんどんに答えた。

 

ソレを無理やり覗き込もうとするようにヒカルはアキラを見上げた。

「じゃ、あの時アキラ、」

「そうだ!」

「てことは…そ…ソレって…

ソレ…。」

「……。」

「ソ…ソレは…

 

…マァ こっちに置いといて」

ガク。

『置いとくんかい!』
もし彼がここにいたら、きっとそんな言葉を発していたに違いない…。

アキラの脳内に妙にリアルな社の突っ込みが、むなしく響いた瞬間であった。

 

 

「生涯を共にする…エート ナントカのキスで目覚めるんだって事はさ。
じゃ、お父さんの場合は…おかあさんが…キスすれば目覚める ってこと?」

「当然だろう…。」

“ナントカ”はないだろう、“ナントカ”は と言いたいのをこらえて、アキラは王妃に向かって頷いた。

娘に指を指され、アキラに頷かれ、
王妃はドングリ眼で自分を指差した。

「エ?私が…?」

その仕草と表情に、つくづく似たもの親子だな…とアキラは独白する。

 

その話をようやく理解した途端、急に照れだす母・美津子。

「あら、ヤダ。そんな…。
ええ? だって いまさら、ねえ。」

「そんな事言ってる場合じゃないダロ!お母さんってばッ!」

「ええー? だってもう こんないい歳になって今更 ねえ…」

「カンケーねーから!ってか、イイ歳っつーんだったら、照れてないでさっさとしなよ!」

 

「さっさとしな はあんまりだろう…。」

「何ですヒカル!親に向かってイイ歳だなんて」

「おかあさんが言ったんじゃないかっ!」

 

照れすぎて混乱している母・美津子。

 

その肩を後ろからグイグイと押して、ヒカルはベッドに眠る父の前に母を向かわせる。

「ホラ、そうと決まったら早く!」

「そんな急かなさいの、嫌ね、この子ったら。」

「ンな事言ってる場合じゃないって!」

 

 

ベッドに眠る父・正夫の顔を覗き込んで、いまだに照れからか躊躇する母。
ゴホ、と顔をそらせて咳払いを一つすると

「では…。」

 

そう言って顔を近付けるが、

固唾を呑んで見守る子供達の視線に耐え切れず

「ああ、もう、そっち行ってなさい!」

母はしっしっ と後ろ手でヒカル達を追い払う。

 

「えー、ケチ。」

「ケチじゃないでしょうケチじゃ!」

 

 

アキラに引っ張られて寝台から少し離れるヒカル。
二人は王妃が落ち着きを取り戻して再びトライするのを見守った。

 

「エート…じゃあ …。」

照れ隠しの独り言を呟きつつ、母がようやく父の顔の上に近づく。

それを見計らって、ヒカルはその傍らに屈むと小さい声で、ヒューヒュー、 とはやした。

 

「…やめなよ、そういうからかいは…。」

アキラが呟いた。

とほぼ同時に 母美津子からも

 

  ゴキン

… 一発お見舞いされたヒカルなのだった。


。 . 。 . 。

 

 

ちゅ。

 

…コンマ何秒かの短いキスの直後に

 

「ハイ」

 

ええと、これでいのかしら?と不安そうに見守る王妃。

 

ヒカルは脳天にたんこぶをこさえて(いつもこんな目に…) ベッドに横たわったままの父を見下ろした。

 

 

 

「…変わらない…ような気がするケド…。」

いまだ変化の現れない父・正夫。

 

 

「まだ眼が覚めないのかしら…ホントにコレで大丈夫なの?」

「…待ちましょう…」

 

アキラもさっきは桑原の魔法薬のせいと断言したが、現場を見たわけではない以上、それらはさすがに推測でしかない。
ヒカルの時も結果が現れるのに時間を要した。
今はひたすら国王に変化が現れるのを待つのみだった。

 

『案外、ナントカがお母さんじゃなかったりして』…という冗談は さすがにタンコブじゃ済まされないようなので、さすがのヒカルも 言いそうになる口を押さえた。

 

 

 

「…あなた、コレで起きなかったら、承知しませんからね…!」

不安が募る母は 思わずそんな言葉を口にする。

ヒカルも父の顔に変化が現れるのをひたすら待ちつつ、父に語りかけた。

「…起きてよ…、お父さん!お願いだよ!

…オレ、

お父さん大好きだよ!

 …そりゃあ、お母さんに比べてカゲが薄いけど、
  …顔も印象薄いけど、
   …いっつもテキトーなことばっか言ってるけど…
でも…、オレ 愛してるよ、

だから、お父さん 起きて…」

 

 

「あなた、お願いだから早く起きて下さいな、ええと し、仕事に遅れますよ

それにゴミ収集が来ちゃいますから…」

 

「お母さん いつもそんな風に起こしてたんだ…。」

 

いやそれよりこの国では王妃が王を起こしに来るのか?しかもゴミを捨てさせるのか?

意外な驚きでいっぱいのアキラであった。

「アラやだ 私ッたらなにを。 イヤね、 そんなわけないでしょ!」

自分でもよくわからないことを口走ったとあわてる王妃。

 

 

その時

国王の顔がわずかに動いた。

髭の上に飾られたガラスの粒が液体の姿に戻り、ツルリと零れ落ちるが、あまり美しくはないのが申し訳ない。

 

「…あなた!?」

「 う、ウゥ ン… 」

 

王はベッドの中で、強張った体を苦しそうに動かし、

 

ようやく眼を開いた。

「あなたっ!!」
「お父さん!」

大喜びで王に飛びつく妻と娘。

 

 ドシ!

 

「ぐふぁ!…く、苦しい…」

 

胸の辺りを二人に押しつぶされた勢いで、口から黒い煙のようなものを一塊に吐き出す。

ゲホゲホと咳き込む父に、喜びの表情で抱きつく家族。
王は事情が飲み込めないが、妻子の輝くような表情を見つめ、やがて 笑みを浮かべた。

その後ろに立つアキラは、三人の幸せいっぱいな様子に、安堵の息を大きくついた。

「生きてたのね!あなた!」

「お父さん、よかった!」

 

ヒカルは喜びでいっぱいの顔で振り向きアキラを見上げた。
「お父さん生きてた!アキラ、オマエのお陰だ!オマエの言うとおりだったよ!」

「ああ。本当に よかったね…。」

アキラもまた笑顔で答える。

 

「オマエの言うとおり…。いう…とお…り……。」

…ってことはやっぱり…

ヒカルの顔が、満面の笑顔から、みるみる、照れたような途方にくれたような なんともいえない表情になって

アキラのほうを向いたまま俯いた。

 

「…。」

 

 

「大丈夫ですか、どこか痛い所とか、苦しいとかありません?」

母がしきりに父の様子を気にかけ、父がぎこちなく上体を起こすのを手伝っていた。

「いや…もう…大丈夫だよ…何があったのかよくわからないが…私は気を失っていたのかな?」

ヒカルもそれを聞き、父の方に向き直って笑顔で目覚めた父を見上げた。

 

「お父さん、よかった…!」

「さっきからどうしたね、生きてただのよかっただの… 私は死んじゃいないよ…?」

きょとんとした顔でそういう父に、ヒカルと母・美津子は顔を見合わせて、笑った。

「ああ、そういえば…」

父がヒカルに向かって口を開く。

「ヒカル、さっき… 何か、好き放題な事を言ってなかったかね?」

「ン?ウウン 別に。」
「そうか?ならいいんだが。」

 

そう呟きながら、父は喜びでいっぱいの妻と娘を見つめていたが

 

ヒカルの様子が以前とはどこか違うような気がして、まじまじと見つめた。

「…しかしヒカル なんだか雰囲気が前と変わったような気がするな…。なにかあったか?」

 

「ホント?そう見えるの?」

 

傍らの母も父の意見に頷いた。

「そうね、確かに なんだか雰囲気が…。すこし、もの柔らかくなったような」

 

 

ヒカルがアキラを見上げると、アキラもまた小さく頷いた。

 『さすがご両親だ。言動は大して変化していないのに、子供の変化を感じ取っているんだな』 


そうか、とヒカルも照れて、頭をポリポリ掻きながら言った。

 

 

「エヘヘ、わかった?

 

いや~、オレ、実は 女になっちゃって」

 

「……………」

 

どて

 

 

さっき起きたばかりなのに 再びベッドに逆戻りする父・正夫。

 

 

「あなた? あなた?!  しっかり――――――!!」

 

 

 

 

 

 


 

お父さん かわいそう   …ホロリ。