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ヒカ碁二次創作のお話置き場です(ヒカル少女化注意)

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リボンの棋士 53

 


「あなた、ヒカルの言うとおり、ここから出ましょう。せっかく生き返ったのにここにいちゃ危険よ。」


  王妃は、あらかた虫を退治し終えて、スリッパを振るう手を緩めながら、王に振り返った。

「う、うむ、城に残った者たちも心配だ。ヒカルが心配だが、塔矢の若殿もついているようだし、あの子の言葉に従うか。」

甦ったばかりなのにハードな運動をさせられて、唇を紫色に青ざめさせすっかり疲労困憊の父、正夫であった。

 

「あなた、大丈夫?」

「う、うむ…」

いまさらな王妃の声に、王は苦しそうに返事しながら側の椅子に腰掛ける。

「そうだわ、そういえば、その椅子は重すぎて運び難いからと、車輪がついていたはず。

それに座って頂けたら、私一人でもあなたを運べるかもしれませんわ。」

「そ、そうだろうか?」

「まかせてくださいな、さあ外に行くなら暖かくしなくては、顔が真っ青よ。」

王妃はベッドの上から白い掛け布をはがし、椅子に腰掛けた王にふわりと纏わせた。

「美津子…すまないなぁ。」

「お父さん、それは言わない約束でしょ。」

「…。そんな約束したっけなあ…?」

「細かい事は気にしないで、それより、さあ、ここをでましょう…。」


ゴリゴリと低い音を立てて、重い椅子が廊下に押し出された。

国王仕様の椅子の背が大変立派過ぎて、美津子には前が見えにくい。

「あなた、前は大丈夫?」

「ああ。なかなか快適だよ。進藤いや振動がいささかひどいが…

 …おや む、向こうにいるのはじ、侍従の、古瀬村じゃ、な、ないか。」

「ま、大変、逃げ遅れたのね。」

 

「に・に・逃げるように い・い・言ってやらないと。そ・そ・そ・それにお前だけでは大変すぎる。て・て・て・手助けが必要じゃないか。」

「ええ。ちょうど助かったわ。」

早速、王妃は力を込めて椅子を前に進めた。廊下のじゅうたんの上を低い車輪の音がゴトゴトと響く。

 

 

古瀬村は、城の中からゴキブリの群れの気配が消えたことを感じて、安堵のため息をついていた。

「ああ、恐ろしかった…

僕はゴキブリが一番の苦手なんだ…。
もう…いなくなったのかな…

 

そ、そうだ、今のうちに僕も逃げよう…」

古瀬村が、小さな体をいかして隠れていた柱時計の中からそろそろと這い出し、

ようやく立ち上がったとき。

 

 

ごろごろごろごろ…

 

 

古瀬村の耳に低い押車の近づいてくる音が聞こえた。

 

「ん?」

振り返った古瀬村の目に飛び込んだのは、

 

重厚な造りの椅子に腰掛けた、青ざめた顔の…今は亡き、国王の姿だった。

 

「…ひ…!」

死んだはずの国王が真っ青な顔で、体に纏った真っ白な布をなびかせ…

「お・お…おぉい…こ・こ・こーせーむーらぁぁー… は・は・はやく逃げよぉぉぉぉ…」

 

 

しかも椅子が勝手に動き、気味悪い音を立てながらこちらに近づいてくる…!

 …後ろを押す王妃美津子は、椅子の背に隠れて見えないらしい。

 

「…ギャー!オバケー!」


王の両腕が(椅子の振動のせいで)ギクシャクした動きで差し出された、その途端に、
古瀬村は飛び上がって逃げ出した。

 

 

「ゴキブリの怪物の次は王様の幽霊だあああーっ!

お助けー!!!」

 

バビューンと音のしそうなものすごい勢いで、古瀬村は廊下を駆けて行った。

「お、お化けだって?」

「ま、待って!古瀬村!」

王はそれが自分を指しているとは思わず、ギョッと肩をすくめて辺りを見回した。

王妃は置いていかれてたまるか、と、勢いをつけて椅子を押す。

そのうち車軸が温まって回転しやすくなったらしく、椅子は急にスピードを上げた。

 

がろがろがろがろがろがろ!

 

「私も連れて行ってくれぇぇぇぇ~~…!」

「ヒィィィィィ!
僕は幽霊が一番の苦手なんだー!助けてくれー!」

王国おふれ係の古瀬村の、けたたましくもよく通る声に、

城に残っていた者たちは、何があったかと残らずぞろぞろと廊下に現れた。

そして家来達は見た。

 

死人(のはず)の国王が、ものすごいスピードで椅子に座ったまま廊下を走っている。

「ちょっと、誰か押して頂戴!誰も手伝わないの!?」

…誰かが手伝わねばならないような速度では既になくなっていた。誰も手を出そうとしないのは当然だ。

 

もちろんそれ以前に
…白い布を翻して、椅子に座ったままガクガク揺れる諸手を差し伸べている亡霊

としか思えない王の姿がこちらに猛スピードで突進してくる図など…誰が近づきたいものだろうか。

そして、 まさに口裂け女の伝説のルーツともいえる光景に、
王城の回廊は阿鼻叫喚の坩堝と化した。

 

特筆すべきは城中に響き渡るこの男の声。

 

「ギャー!みんなー!逃げるんだー!お、お、王様が化けて出たあああぁぁぁーっ!」


さすが王国のおふれ係として働く古瀬村、

そのけたたましい叫び声だけで、残っていた家来達を一人残らず城からいぶりだし、逃げ出させる事に成功したのだった。…。

と、このように、小国ながらヒカルの王国は、実に素晴らしい人材に恵まれた良い国なのだ…が、

 国王・正夫は、家臣にことごとく背中を向けられる という、

生まれて初めての光景に大層ショックを受け、
椅子から弱々しく手を伸ばして、ただ力無く呼びかけるばかりだった。

 

「あ・あ・あのえーと… お・お・おーい み・み・みんな~ぁぁぁ~~…」

 

 

。 . 。 . 。

 

 

必死で階段を駆け上がるヒカルとアキラ。

しゃっくりはいまだにヒカルの体をホップさせている。

「息が出来ないんじゃないのか?大丈夫か?」
アキラの心配通り、息が切れ、満足に吸い込む事も出来ない。

ヒカルは苦しそうに顔をゆがめながら、
それでも、アキラへの返事代わりに不敵な笑みを、一瞬、口の端に浮かべた。


後から追ってくる黒い塊は、元が御器曽とはとても思えない虫の群れ。
地を這い、壁をも伝い、うねりながら、もはや形を一瞬もとどめずにヒカルたちを捕らえようと幾本もの腕となって二人の背後に伸びてくる。

腕、といってもそれを構成するのは無数の小さな虫達である。

それらは背中のすぐ後ろで、まるで波の様な音を立てていた。

ざわつく音の塊の中に、ガサガサ、ミチミチと高い軋みの音も混ざり、ひどくゾッとする気配にヒカルは背筋を震わせた。

 「どうわぁぁぁっ!」

「怯むな!追いつかれるぞ!」

怯むどころか、背中を走る悪寒がさらにヒカルに鞭を打ち、狭い石の階段を、二人は猛烈なスピードで駆け上る。

アキラは短い脇差を抜いて、振り向きざまに薙いだ。

軽い手ごたえ、一瞬敵は攻撃に怯んで、形を乱し、動きが鈍るが、程なく散らされた虫たちの無事なものは再び群れに合流して、逃げる二人を追いかけ始める。 
それを繰り返し、やがて 追いすがる虫達を、無駄とあきらめず薙ぎ払い続け、走り続けた甲斐あって、
なんとか追っ手をいくらか引き離すことに成功した。

 

そして、とうとう、たどり着く長い階段の登りつめた その場所に…

書かれた文字を アキラが見上げた。

 

 

【王子専用男子トイレ】

 

 


目が点になるアキラをよそに、ヒカルは荒い息もそのままにその看板を仰いで、一歩、二歩と近づいた。

 

「はあ、はあ、やっとここまで… げふ、」

「ちょっと待つんだヒカル!」

アキラはヒカルの肩を掴んだ。

「ナニ?」

 

「女子はあっちだろう?!」
隣の女子トイレを指差すアキラ。

 

いつかと同じ展開に、ガクっと膝を折りかけて、ヒカルはアキラの襟にすがりついた。

「…いーから、ヒクッ 用があるのはコッチ!」

 

「しかし!今は用を足している間なんか」

「その ケポッ “用”じゃねェー!」
「うわあっ!?よ、よせッ!」

 

掴んだ襟を引っ張って、ヒカルはアキラを トイレに連れ込んだ…。

 

 

。 . 。 . 。

 

 

「い、一体なんだここは、長々と階段を登ってきたと思ったら、行き止まりが雪隠とは??」


「せっちんってナニ?」

アキラがその質問に、眉を寄せ、声無く口を開いたとき、

 

 ずしゃあああぁっ!

硬い粒状のものを樽一杯分はぶちまけたような音が戸口に響いた。

 

言葉を交わすのは後だ、と、
二人は戸口に向かって剣を、刀を、それぞれ抜いて身構えた。
ヒカルは腕に通していた父の王冠を、グイ、と頭に載せて押し付けた。

肩を息で躍らせながら、無言で並び立つ二人。

 

敵の突入を待ち構えながら アキラは、ふと視線を横に流した。

…もしかしたら
ここが最期の場所になるかも知れないというのに
一生をともにしたいと願う相手と一緒にいるはずなのに

 

 

自分達の横に並ぶのは 男性用の小便器である。

 

白地に華麗な染付けが施されようと 金具がことごとく豊かな金の輝きを放っていようと

煌びやかな意匠をあしらった握りが金の鎖で吊り下げられていようと

そこは便所なのだ厠なのだ雪隠なのだ御不浄なのだ。

 

アキラの頭痛は走り過ぎによる疲労からだけではない気がした。

 

 

階段を登りつめた虫の群れはいったん踊り場一杯に散った。

水が流れる如く、黒い流れが拡がり、ひしめく音を立てながら、ヒカルとアキラのいるトイレの中に侵入してきた。

「ひああぁっ!」
「ええい、来るな虫ども!」

 

しかし それらが即座に襲い掛かる様子は無い。ただの無秩序な虫の群れのようだ。

…もしかして雪隠というのは奴等にとっては快適な空間なのではないか?

アキラがそう思った瞬間

「い、い、いーかげんにしろォー!ゴ、ゴキ、…御器曽ぉッ!!」

ヒカルはおぞましさを振り払うように、腹から響く声で怒鳴った。

最後のあたりは、震えてひっくり返ったような声になっていたが

武者震いとは言い訳できそうもない、この体の震え方ではそれも無理もないことだ。

その声に反応して、虫達の触角がピキンと立ち上がり先端を揺らした。

 

うっかり快適空間に和んでしまったのがハッと我にかえったような、そんな仕草だった。

そして無数の虫の触角が、眼の様に一斉にヒカルを見た。

「ひぎっ」

ヒカルは、悲鳴としゃっくりが一緒に出たような声を上げた。

 

案の定、ヒカルの動きが虫の思念に縫い止められたように固まった。

「しっかりしろ!ここで終わる気か!」

ヒカルの耳を引っ張って、アキラは鼓膜も破れんばかりに叱咤する。

 

「ひ」

ヒカルが小さく声を上げる

「気を確かに持て!」

「ひぃ…」

「ヒカルッ!!」

 

「ひぃっ …


…くしょん!」


がたがたがたっ

なぜか虫たちはバランスを崩し、動きの乱れが部屋に響く。

 

アキラは心なしか、部屋全体が一瞬斜め15度ほど傾いた気がした。

 

しゃっくりの次はくしゃみか…。
その次には一体ナニを出してくるのか アキラは考えたくもなかった。が、

 

長く黒い鼻水でも垂らしてるんじゃあないだろうか
イヤ、それよりまた魂を…

そんな歓迎し難い考えがよぎって、眉間に皺を寄せ固く閉じてしまった目を、
…恐る恐る開いて、傍らを見た。

 

はたして 

ヒカルは肩を躍らせ足元を凝視している。

そこには、黒い霧の塊のようなものがゆるい渦を巻いて漂っていた。

 

くっ…
やはり鼻水… 

じゃない?…コレは一体?
「ヒカル?」

ヒカルがアキラの声に顔を上げた。

自分にもわからないのだろう。大きな目をパチクリさせている。

大きなくしゃみのせいか、その眼はすこし涙ぐんでいた。

ぷるぷると首を振ると、髪の先から、肌の表面から、残骸のような粒子が飛び散り、
それらはすぐに霧散して消えた。

 

「げふ、 な、ナンか ヘンなカタマリがでた…」

困惑した表情でそう訴えるヒカルは、しかし、今までより心なしかスッキリとして見えた。

アキラはそれを見て

「…なんだかまるで憑き物が落ちたような… そうか!

あの薬が体の毒を吐き出させたのか!?」

 

「そーなのかな… そういえば もうしゃっくり出ないや…。じゃあこのヘンなのって 俺の体に」

 

足元の黒い霧はぐつぐつと蠢き、まるでヒカルの中に戻りたがるような動きを見せる。

幾本もの糸を吐き拡がりながら近寄ってきた。

「うひゃっ?!」

悲鳴を上げるヒカルをアキラが後ろ手にかばう。隙間を縫って細い糸の先がヒカルめがけて伸びた。

しかし、黒い毒の霧はヒカルの体にはどうしても戻れないらしく、伸びた糸の先がヒカルに近づくもすぐに弾かれた様に退く。

 

「きっとそうだ。…ヒカル、これがキミにかけられていた呪いの正体なんだ。」

「うぇー ヤダなあこんなモン入ってたのかヨ…。」

「だが、ご覧、もうキミの中には戻れないようだ。」

「ケド、コレ、一体ナンだろ…?」

その時、黒い毒の塊に虫たちが反応して騒ぎ出した。黒い毒に近づこうと数匹が触覚を揺らして近づいてくる。

 

「!」

スパーン!
ヒカルが見事な…スリッパ捌きで虫を叩き払った。

場所が場所だけに何処から出てきたんだそのスリッパはという突っ込みはナシにしたい。

「アレ オレ なんでヘーキなんだろ…?」

「呪いが解けたのと関係あるのかもしれないな。
…ならば、こんなもの、こうして…!」

アキラはその黒い霧の塊を一気に踏みつけた。

霧のようなものは瞬間、ギュウという音を立てたが、草履に踏みにじられて弾けた。

それに反応してか 虫の群れが一瞬怯んだような様子を見せる。

 

「キミの体にたまっていた毒に、なぜ虫どもが反応を示したのかはわからないが…、
気分はどうだ?ヒカル。」

「気分…は 悪くない …さっきよりずっとね。 ただ、マァ、こんな状況だけどね。」

ハ、ハ、 と強がりも交えて声を立てたヒカルだがその直後

虫たちの軋む音が波の様に盛り上がった。

 

「なんだっ?!」


一旦拡がった黒い霧は、吸い寄せられるように虫たちに流れよる。
虫たちもそれを招き寄せるように触角を蠢かせていた。

 

「くっ 一体何が…!」

どうすることも出来ずただ刀を構えなおすしかないアキラ。

たちまちのうちに黒い霧は群れにまとわり付き、一匹残らず一つの大きな塊にまとめた。

ヒカルの体から追い出された毒は、運悪く、虫に歓迎されるような作用を及ぼしているらしい。

 

その毒の正体が何かを知る桑原博士ならば、ここで的確な解説をしてくれる所だろうが、

生憎博士はここには不在なので、二人には何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。

ただ、目の前で見上げるように盛り上がる虫の塊に切っ先を向けながらも唖然とするばかりだ。

再び力を蓄えたのか、黒い柱の中からまた、虫の立てる音を織り上げるようにして奇妙なうなり声が聞こえてきた。

 

「また人の形にでもなる気か!そうはさせん!」

アキラは刀の柄をぐっと握り、いざ斬りかからんと構え直した。

「ヒカルッ 下がっていろ!」

「アキラッ!オレに抱きつけ!」

ヒカルはそれと同時にアキラに叫んだ。
「…抱ッ…?!」
仰天して聞き返すアキラがヒカルを見る。

 

ヒカルはすばやく剣を鞘に収め、片手をアキラに差し伸べていた。
「早くッ!」
ヒカルの目は真剣な眼差しで強くアキラを射る。

 

何かはわからないがヒカルに策ありと睨み、アキラは小さくうなづくと片手を刀からヒカルの肩に伸ばした。

「しっかり掴まれッ!
…行くぞ!」

 

アキラがヒカルの肩を抱きかかえると、ヒカルが金の飾りの付いた鎖に飛びついて足をアキラの胴に絡めた。

「ウワ!?」

「落ちるなよっ! 行っけェ!」

 

 

ガコン!

 

と音がして、瞬時に足元の床が消え、底の見えないほどの深い空間がその下から真っ黒に口を開けて現れた。

そして、部屋の真ん中に高く盛り上がっていた黒い怪物が、

今にも飛び掛ってきそうだったその姿が、床が消えたと同時にふっと掻き消えるように落下した。

 

 

「床が!」

アキラも 足元がバックリ口を開いた空間に変わったことに驚き、 一瞬ずり落ちそうになる。

 

「グエ 苦しい…!」

ヒカルが首を絞められ、つぶれたカエルのような声を上げた。

「すまない しかしっ…!」
「足 絡めろ…」
「いや、あのしかし」
「いーから!死にたくねェだろ!」
「ならば…御免」

おかげで和装コアラといった風のアキラであった。

「ナニ謝ってんだよ。」
「謝ったんじゃないよ…。」

抜き身を片手に持ったままでヒカルの体に絡みつかせて、 
もう片方の手をヒカルの肩越しに鎖へと伸ばし
ヒカルが両手でぶら下がる鎖を、自分も共に握った。

「ウワあぶねェ!刀ァ仕舞っとけよ。」
「片手じゃ無理だ。」

「アキラ…、 アイツは…?」

「落ちたようだ。」

「…そうか。」

 

ヒカルは視線を落とし、低く小さな声でそう言った。

 

「ヒカル…この下はどうなってるんだ?」

「地下深くの古い牢屋まで続いてるらしいけど よくわかんない。継承者の間を守る仕掛けだ。
今まで侵入してきた者が運悪くココで落っこちちゃってんだろうって事は聞いてるんだけどね…。

 

偽札造りの部屋はないと思うぜ たぶん。」
「……何言ってるんだ。」

 

足元の底知れぬ空間は 見下ろして目を凝らしてもただ真っ暗で、二人の話し声が低く反響して漂っていた。

 

「…ところでボクたちは、いつまでこうしてるんだ。」

二人、体を絡み合わせてぶら下がっている状況に、いささか恥ずかしさが募ってきたのか アキラが不機嫌そうに訊ねた。

 

「いつまでこうしていたい?」
「…ふざけるなっ 」

「…つー… 耳痛ェ…。
…大丈夫だよ もうすぐ音がして 床が元に戻るから。」

そうヒカルが言うとおり、やがて穴の底から低い音が聞こえてきた。

 ぶぶぶぶぶぶぶぶ

「確かに 何か、妙な音がするな。」

目に安堵の色を見せるアキラだが

「…。ヘンだ。」

「え?」

「あんな音じゃない 床が戻るときってあんな音じゃ 
…ナ、ナニ?あの音…?」

 

「…!?」

ヒカルの言葉にアキラは表情を硬くして音のする方にキッと顔を向けた。

 

黒い穴の底から奇妙な振動音は近づいてきていた。

 

「…ふ・ふ・ふ…どうもお疲れ様ですな 王子 いや 王女様。」

 

 

「ごっ… 御器…曽?」

穴の底から羽音を立てて昇って来たのは、

 

一匹の巨大なゴキブリ…

いや ゴキブリのような色艶の奇妙な甲冑に身を包んだ御器曽卿だった。

 

御器曽は、背にはあめ色のマントととも羽とも付かぬものをはためかせ、
宙に浮きながら、すう、とすまして立っているようにポーズをとった。

 

 

「その甲冑……、まさか さっきの虫の塊が…?」

 

「左様。
私もまさか、またこのような姿に戻れるとは思っておりませんでしたが…」

 

「おのれ妖怪、まだ刃向かうか!」

「ふふ、これも王~女様のお陰ですかな、ハ、ハ、ハ、」
「お~ぉじょさま?」

鎧なのか それとも 虫と融合した姿なのか
黒光りした体は、硬く鋭利な造形で成り立っている。

 

宙に直立した御器曽卿は、わざとらしく優雅に会釈してみせる。

「ヒカル様からの賜り物は 大層美味でございましたぞ、
それにこのような、我等には快適な場所に御案内頂いて、有難くて笑いが止まりませんな 
ヒャアハハハハハ!」

「んな言い方ヤメロッ!ヤラシーぞ!」

「貴ッ…様ァ!」

 

アキラのほうがその陰湿な物言いに逆上して刀を振り上げた。

その動きに、御器曽はピクリと片眉を動かし、
同時に御器曽の片腕が上がった。同時に鎧の表面にあめ色の艶が走る。

 

その輝きが見せたのは

 

腕の先に伸びた、まるで蟷螂のような大きく鋭利な刃だった。

 

 

 


 

 おーさま まさお。 回文の様ですね…。まさに王になるために生まれてきたような男(ほんまか)。

ゾンビのような扱いをされちゃうおーさま&時計に隠れてた7匹の子ヤギの末っ子レベルにちっさい古瀬村さん お話の流れにあまり関係ないんだけど好き …とか言ってるからこんな萌え要素の乏しい展開になっていくんじゃな(笑)